■ 夏の始まり
▼まえがき
雄樹編のB面ストーリーです。
実験的にゲームっぽく”選択肢”を導入してみました。
はっきり言って意味ないです。
一応、主人公(この場合は由梨)の性格が微妙に変化します。
それだけです。
現時点では全く手をつけてません(ぉ
そうなる予定です。
色んな性格の由梨をお楽しみ下さい(マテ



って、このまえがきの方が本編より恥ずかしいな……(〃д〃)ゞ

【由梨】
「きゃっ」


不意に身体を抱き上げられて、思わず変な声が出てしまった。
雄樹は私の肩と膝あたりを持って、私を抱き上げている。


【由梨】
「やだ……やめて……」


そんな『お姫様抱っこ』状態が恥ずかしくて小さな声で拒絶してみる。
でも、そんな私を見下ろす雄樹の顔は、意地悪そうな笑みが広がっている。


【由梨】
「……お願い……やめて……ね?」


もう一度拒絶してみる。
でも、その声に雄樹の顔には更に意地悪そうな笑みが溢れ出した。


【雄樹】
「いくぜ?」


そう言われた瞬間、思わず目を閉じてしまう。
これから何をされるのかが、動揺していた頭でもすぐに理解できたから……

【由梨】
「きゃっ……」






ばっしゃ〜〜〜〜〜〜ん






目を開けると、結構上の方に水面に歪む太陽が見えた。
どうやら川のそれなりに深い所に投げ込まれたようだ。


【由梨】
「ひゃぁ〜〜〜〜〜〜、冷た〜い!」


水面から顔を出すと、水の冷たさが全身から感じられる様になった。
初夏……と言っても気温はもう夏のような暑さで、しかも長い時間車に揺られてきたから、開放感も一際だった。

立ち上がってみると、腰のあたりまで水が来る。
流れもそこそこ早く、しっかりと足に力を入れないと流されそうになる。


【由梨】
「あ〜あ、服濡らしちゃったじゃない」


肌に張り付いてくる服が、なんとも言えず気持ち悪い。
指で摘んで出来るだけ服を肌から遠ざけようとしてみたけど、摘んだ所が離れる分、他の所がくっついてくる。

ついつい雄樹(私を川に投げ込んだ張本人)を睨みつけてしまう。
勿論、川に投げ込まれた事だけで睨みつけているわけじゃない。
『川に遊びに行こう』という誘いを受けた時点で、川に入ることはわかってたから濡れたこと自体はそんなに怒ってはいない。
どちらかと言うと、川に投げ込んだが人の顔を見て笑っていることが気に食わなかった。


【雄樹】
「おいおい、アイシャドウが流れてるぜ? ぷっ、あはははははは……」


【由梨】
人の顔見て笑うなッ! あんたが川ん中に落としたんでしょッ!」


我慢できなくなって、両手で水を掬うと、そのまま雄樹の方へと振り払った。
私の手から離れた水の固まりは、その量をほとんど減らす事もなく雄樹を正面から捉えた。


【雄樹】
うおっ!? 冷てぇ!」


そして、水の掛け合い、沈め合いが始まった。
水の冷たさが、ここにくるまでの長い車での移動時間や気温の高さを忘れさせてくれた。
雄樹は『着替えなんか持ってきてない』なんて言ってたクセに、まるで子供のようにはしゃぎ回ってる。


【由梨】
『楽しい……』

最近、ちょっと悩み事があって塞ぎ勝ちだったけど、久しぶりに心から笑えた気がした。


……………………

…………

……


【晶】
「いい加減、上がってきたらどうだ?」


気が付くと、すぐ横の岩の上に呆れた顔をした晶くんが立っていた。
いつもの様に両手を腰に当てて、一人クールさを装っている。


【雄樹】
「冷めてんなぁ……」


気が抜けたように雄樹が言った。
確かに、せっかくここまで来たのにはしゃがないっていうのもちょっと勿体無いと思う。


【雄樹】
「もっと盛り上がろうぜ? せっかくこんな山ん中まで来たんだからよぉ」


雄樹が晶を控えめに誘ってみる。


【晶】
「着替えも持ってきてないのに川に入る馬鹿はいないだろ」


その誘いをあっさりと却下して、晶くんは面倒臭そうに右手で頭を掻いた。


【雄樹】
「た、確かに正論だな……う〜ん……」


着替えを持ってきてない事が気になり始めたのか、雄樹は腕を組んで思わず首を傾げてしまう。
雄樹が動きを止めたことで、なんとなく自分だけが川の中に取り残されたような感じがして、私は雄樹の気を引こうとその背中に水を浴びせ続けていた。


【晶】
「今の内にあがっておけば、まだ帰るまでには乾くと思うぞ」


【雄樹】
「ちっ、仕方ない。あがるか」


晶くんに諭され、雄樹は川から上がってしまった。
雄樹はシャツを脱いで、それをこれでもかというくらいに絞って水気を払うと、またそれを広げて着た。


【由梨】
「ちょっと、ちょっと、置いてかないでよ! んっ、引き上げて」


本当に二人に……雄樹に置いて行かれてしまう気がして、その背中に慌てて声を掛けた。
腕を伸ばして、自分を引き上げてもらおうと思った。
何故か、その手に触れたくなったから……。


【雄樹】
「……自分であがって来い」


そう言われて、心の中で何かが壊れそうに軋んだ。
何でそう思ったのかは分からないけど、とにかくそう感じた。

構って貰えない猫の心境のような、幼稚で自分勝手な寂しさが心を満たしていくのがわかった。
どうしても、雄樹を自分がまだ残っている川に戻らせたい……。


その時、ふと晶くんを巻き込もうという考えが浮かんできた。
晶くんを巻き込んでしまえば雄樹も戻ってきてくれるかも……


【由梨】
「え〜、冷たいなぁ。晶君、手貸して♪」


雄樹の方へ伸ばしていた腕を晶の方へ向けて、自分を引き上げてくれるように頼んでみる。
晶くんは『仕方ない』と言った感じで溜息を一つつくと私の方へ手を伸ばしてくれた。


【晶】
「ほら、さっさと上がれ」


クールを装いながらも決して優しさは失わない晶くんの人の良さを利用するようで良心が痛んだけれども、今、頭に浮かんできた思い付きを私は実行した。


【由梨】
「ありがと〜♪ え〜いっ!!


自分の方へと伸ばされた晶くんの腕を思いっきり引っ張って、晶くんを川の中へと引きずり込んだ。
中途半端に屈んだ格好をしていた晶くんは一気に体制を崩し、そのまま私に覆い被さるようにして川の中へ頭から飛び込んできた。






どっぼぉ〜〜〜〜〜〜ん






水面から顔を出すと、すぐ目の前に何が起こったのか理解できてない様な呆然とした晶くんの顔があった。


【由梨】
「あはは〜♪ やった、やった♪」


長めの前髪が水で顔に張り付いてしまっているのがなんだか面白くて、なんとなく笑いがもれてしまった。


【晶】
「やったな? やったよな? 許さねぇ!!


我に返った晶くんは、そう言うと思いっきり水を跳ね飛ばしてきた。
勿論、怒ったような口調だけども、顔は全然にやけ顔になっている。

そして再開される水のかけ合い、沈め合い。
しかも今度は3人で……。
結局3人とも思う存分びしょ濡れになって水遊びに励んでしまった。

浴びせられる川の水が、さっきまで心の中に湧き出していたドロドロとした感情を洗い流してくれた様な気がする。


【晶】
「喰らえっ! メガトンミサイルッ!!


掛け声と共に岩の上から飛び込んでくる晶くん。
思いっ切り水面でお腹を打ったような音が、川原に響き渡り、同時に着水で跳ね出された水が覆い被さってくる。
その水飛沫に打たれながらも、晶くんの掛け声が面白くって雄樹と顔を合わせて笑い出してしまった。


【雄樹】
「あっはっはっはっは〜、ダセェ〜。今時、そこらのガキでも『メガトンミサイル』なんて言葉使わねぇぜ」


【由梨】
「あっはっはっはっは〜♪」


ハモる2人の笑い声に、いつも頑張って作っているクールなキャラクターが壊れていく晶くん。


【晶】
「おい雄樹っ! そこで待ってろ、今、俺が後悔させてやるっ」


そう言うと着ていた半袖のYシャツを脱いでそれに財布を包んで岸の方に投げ、さっき以上に大胆に川へと飛び込んできた。


……………………

…………

……






ぴぃーーーーーーーーっ!!






日も高くなって、なんとなく直射日光が痛いような感じになってきた時、突然笛が吹き鳴らされた。


【麗】
「あの〜? そろそろご飯の用意ができたんで上がって欲しいんですけどぉ」


のんびりとした口調で、岩の上から麗ちゃんが岩の上から川に顔を覗かせた。


【由梨】
『あ、麗ちゃんの事忘れてた……』


酷い女もいたものである。
男2女2の4人で来たのに、女の子一人残して遊んでるなんて……
そして、次の麗ちゃんの言葉が更に後ろめたい気持ちを高めた。


【麗】
「もう、お肉焼けてますよ〜? 早くしないと焦げちゃいます」


お肉や野菜の刺さったバーベキュー用の串を持っている手を振りながら、麗ちゃんは集合をかけた。
『ごめん』……そう言いかけた時、雄樹のお腹が大きくなった。


【雄樹】
「ん〜、腹も減ったし、いい加減上がるか」


お腹をさすりながら川から上がっていく雄樹。
向こうの方では食事の時用に持ってきた組み立て式のテーブルが組まれ、麗ちゃんによって食事の用意が進められていた。


【由梨】
「うん、そうだね〜。ほら、晶君も遊んでないで上がってきなよ〜」


右手を口に当てて左手で手招きをしながら、岸から大分離れた所にいた晶くんに声をかけた。


【晶】
「はぁ、はぁ、お、俺のリベンジが終わってねぇ。メシ食ったら必ず仕返ししてやるからな、雄樹、由梨」


雄樹が、そう言ってやっと岸に上がってきた晶くんを突き飛ばして川に落とした後、麗ちゃんのいるテーブルの方へと走っていった。


【由梨】
「大丈夫、晶くん?」


さっきとは逆の配置で晶くんに声をかける。


【晶】
「くそっ、雄樹のヤツ……」


私の手を借りて川から上がると、脱ぎ捨ててあったシャツを拾い上げて歩き始めた。


【由梨】
「ほんと、子供だよねぇ、雄樹は」


テーブルで麗ちゃんと楽しそうにしている雄樹を、目を細めながら見ていて、ちょっと悪く言いたくなってしまった。
でも、それが食事にしようと言ったクセに晶くんをわざわざ川に落としていった事で悪く言いたかったのか、私を置いてさっさとテーブルに走って行った事で悪く言いたかったのかは分からなかった。


【晶】
「まぁ、あれくらいが雄樹らしいけどな」


イタズラをされた晶くんから弁護の言葉が出てきてビックリした。
てっきり、また悪口を言うものだと思っていた。だから尚更驚いたのかも知れない。

『羨ましい』と思った。
二人が想像以上に相手の事がわかっている気がしたから……
同時に妬ましく思っている自分がいた。
どうして妬ましいのかは分からないけど……何故か自分だけが雄樹の事を知らない様な気になってしまった。


【晶】
「なぁ、由梨……」


【由梨】
「え? あ、何?」


物思いから急に現実に引き戻されて、ちょっと声が上ずっていたのが自分でもわかった。
なぜか分からないけど、今考えていた事が人には言えない様な恥ずかしい考えの様に思えてきて、顔が火照っていくのを感じた。
鏡を見る事が出来たら、多分、今の私は耳まで紅潮しているんだろう。


【晶】
「あのな……話があるんだけど……」


【麗】
きゃ〜〜〜〜っ! 何これ〜〜〜〜!?


そこまで聞いたところで、麗ちゃんの悲鳴のような……と言っても、なんか間延びのした緊張感のない悲鳴だったのだけれども。


【由梨】
「どうしたんだろ?」


晶くんの真剣な眼差しになんとなく話題を逸らそうと思った。


【晶】
「…………後で、な……」


背中越しに聞こえてきた言葉には答えずに、雄樹と麗ちゃんのいるテーブルの方へ走った。
何があったのか心配だったし、何よりも一旦、晶くんと距離を置きたかった。

麗ちゃんは、何故か一生懸命タオルで顔を拭いていた。


【由梨】
「どうしたの、麗ちゃん?」


声をかけると、麗ちゃんの手の動きが止まり、目から上だけをタオルから覗かせて涙声で私に訴えかけてきた。


【麗】
「ふえ〜〜ん、雄樹がいぢめた〜〜〜〜」


それだけ言うと、またタオルに顔全体を隠して肩を小刻みに震わせ始めた。
小さく嗚咽の様な声も聞こえる。
全然そんな年じゃないのに、なぜか小学生くらいの幼い女の子が苛められて泣いている様な雰囲気を醸し出している……。

泣いているその姿が、女の私から見ても可愛く見えてしまう。


【由梨】
「ちょっと雄樹、麗ちゃんに何したのよっ!」


一体、雄樹は麗ちゃんに何をしたんだろう……
ズキズキと痛む心を抑えながら、雄樹を問い詰めた。

でも……私は、麗ちゃんの事を心配して雄樹を責めてるのかな……?


【雄樹】
「い、いや、ちょっとからかっただけで……そんな、何かすごい事した気は……」


【麗】
「……な〜んてね♪ 嘘だっぴょ〜ん♪」


狼狽して口篭もる雄樹の言葉を、手の平を反したように明るくなった麗ちゃんの声が遮った。

顔を隠していたタオルを振り回して、まるで良い事でもあったかの様な気持ち良さそうな笑みを浮かべた麗。


……………………


しばしの間が空く。そして……


【雄樹】 【由梨】
「『だっぴょ〜ん』はありえない」


2人の否定の言葉が驚くほど綺麗にハモった。


【麗】
え〜っ! 何で、何で〜!?


【雄樹】
「晶の『メガトンミサイル』の次の次くらいにありえないって」


【晶】
「『メガトンミサイル』は忘れてくれ……って、『だっぴょ〜ん』よりはありえると思うぞ」


【麗】
「……『メガトンミサイル』って強いの?」


【由梨】
「麗ちゃん、何か論点ズレてる……」


さっきまでの心配が一気に消えた事で、尚更麗ちゃんの的外れな言葉に脱力してしまった。
私は何の心配をしていたのか……。

そんな私の顔を、麗ちゃんはどうして論点がズレているのかが分からないように『え?』という表情で首を傾げる。
その幼げな仕草が、また可愛く見えてしまう。


【由梨】
『あぁ、こういうのが可愛いって言うんだなぁ……』


……………………

…………

……


【晶】
「このサンドイッチ、美味いな」


晶くんが、口の横についた玉子サンドの玉子を指で拭い取りながら、3つ目のサンドイッチを頬張った。
今日のサンドイッチは、普段料理をあまりしない私が本を読みながら苦労して作った自信作だ。
……と言っても、人に食べてもらうまではちょっと不安だったのだけれど。
だから、晶くんのその一言が飛び上りそうなほど嬉しかった。


【由梨】
「でしょ、でしょ♪ そのサンドイッチ、私が作ったの♪ こっちの唐揚げも食べてみて〜」


唐揚げは……初めて作った割には見た目は上手く出来てると思う。
お弁当箱に入った唐揚げを晶くんの方へ差し出し、食べてもらおうと勧めてみた。


【雄樹】
「このおにぎりは誰が作ったんだ?」


【麗】
「はい、は〜い。麗ちゃんが早起きして握ってきました♪」


口にまだ食べ物が残っているまま、麗ちゃんは高々と手を上げた。
今日持ってきた料理は、種類も出来も麗ちゃんの方が全然上だった。
それがなんとも言えず悔しい。


【雄樹】
「いや〜、やっぱり? 道理でサンドイッチより美味しいそうだと思ったわ」


そんな雄樹の心無い一言が、より一層その悔しさを大きくしていく。


【由梨】
「どういう意味なのか、しっかり説明して欲しい発言だわね」


悔しくて……そして自分が情けなくって、つい睨みつけるような目で雄樹を見てしまう。





《     1.靴を履いていない雄樹の足を踏み付ける     》

《 2.無視して晶くんに唐揚げもサンドイッチも食べてもらう 》

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