■ 家出
深夜、突然玄関のドアが激しくノックされる。


どんどんどんっ!!


【由梨香】
「ごめ〜んく〜ださ〜い」


どんどんどんっ!!


【由梨香】
「晃一さ〜ん、居ますかぁ〜」


どんどんどんっ!!


【由梨香】
「居るのわかってますよ〜。
 今さっき電気消したの確認済みで〜す」


【晃一】
「だ〜〜〜〜! うるさいな。
 何時だと思ってるんだよ!」


【由梨香】
「2時!」


【晃一】
「元気一杯に答えるな! 近所迷惑だろう!」


【由梨香】
「泊めて♪」


小首をかしげて微笑み攻撃。


【晃一】
「……ダメ。帰れ」


一瞬迷った時点で負けか?


【由梨香】
「ケチ。私の身に何かあっても良いって言うの!?」


【晃一】
「だったら家に帰れば良いだろう。
 泊めてやる義務なんてないし、義理もない」


【由梨香】
「あ〜、家はダメ。また出てきちゃったもん」


一拍置いた後、長い長い溜息が出る。


【晃一】
「またかよ」


【由梨香】
「だってだって〜、お父さんってば……」


そう言いながら由梨香は、
ドアを抑えているオレの腕の間から室内に入ろうとする。


ぐいっ。


その襟元を引っつかみ、中に入れさせまいとする。


【由梨香】
「くえっ……。な、何すんのよぅ」


【晃一】
「『何すんのよぅ』じゃねぇよ。
 何入ろうとしてんだ」


【由梨香】
「いいじゃない、一泊や二泊。
 知らない仲じゃないんだし。
 お互いの裸だって見た仲でしょ」


【晃一】
「人聞きの悪いことを大声で言うな!
 オレとお前は直接関係はないだろう。
 たまたま茂人の妹がお前だっただけだ。
 大体、裸見たって言ったって、5年も6年も前、
 小学生の頃一緒に風呂入ったことがあるって
 だけだろ!
 それとだな、世間知らずな高校生の君にも判りやすく
 常識を語ってやろう!」


【由梨香】
「な、何よ」


【晃一】
「仮にも嫁入り前の娘が、例え兄の友人だろうと
 男の部屋に気軽に家出してくるな。
 オレにも、そして一応お前にも世間体ってモンが
 あるんだ」


【由梨香】
「……考え方古臭っ!」


【晃一】
「古臭っ! ってお前、馬鹿にすんのもいい加減に
 しろよ」


【由梨香】
「まあまあ。
 どうせ今からじゃ家には帰れないんだし、泊めてよ」


【晃一】
「安心しろ。タクシー代は出してやる」


【由梨香】
「けちーっ!」


【晃一】
「タクシー代出してやるって言ってるだろ!」


【由梨香】
「けちけちけちーっ!」


【晃一】
「だーっ! うるさいっ!」


【???】
「夜中にうるさいっ! 何時だと思ってんだっ!
 痴話喧嘩なら他所でやれっ!」


横を見れば隣人がドアから顔を出している。


【晃一】
「ごめんなさい。すいません。
 ……しょうがねぇな、入れ」


【由梨香】
「わ〜い♪」


図々しくも由梨香はヅカヅカと部屋に入っていく。


…………


……………………


【晃一】
「ほら、コーヒー」


【由梨香】
「ありがと〜♪ うわ〜、温か〜い」


【晃一】
「まったく……。今晩だけだぞ、泊めるのは」


【由梨香】
「う〜ん、保障は出来ないけど……。
 お父さんと仲直りが出来たらね」


【晃一】
「おい」


【由梨香】
「だって……友達と泊まりでスキー行きたいって言ったら
 ダメだって……」


ハァ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


さっきよりも長い溜息が出る。


【晃一】
「まぁ、それくらいも許さないおじさんもおじさんだけど
 なぁ。
 それで家出するお前もお前だろ」


【由梨香】
「私は悪くないわよぉ」


【晃一】
「オレに迷惑かけてるじゃんよ。悪い娘だ」


【由梨香】
「そ、それはぁ……悪いと思ってるよぉ」


【晃一】
「まあ、そうだな。
 例え話だが、お前が猫飼ってたとする」


【由梨香】
「うん」


【晃一】
「でだな、その猫が急に帰ってこなくなったら
 どうする?」


【由梨香】
「絶対、外になんて出さないモン」


【晃一】
「例え話だと言っとろーがっ!」


【由梨香】
「うーん、心配するかなぁ」


【晃一】
「それと同じ。
 お前の親父さんもそう思ってるんだよ」


【由梨香】
「でも、私は猫じゃないよ?」


【晃一】
「………………。
 お前にたとえ例え話だとしても、まじめに話した
 なんて……、オレが馬鹿だったよ」


【由梨香】
「ムカッ!」


【晃一】
「口で『ムカッ!』とか言うなぁ」


疲れる。


どっと疲れる。


こいつと話すと、人と話してる気がしない。


そんなこと思いながらも、それから数時間どうでも
いいことをダラダラと話してしまった。


結局、オレも帰れとか言っておきながら、居てくれた方が
嬉しかったりもする。


元々兄弟の多かったオレは一人暮らしを始めてから、
結構寂しく思うことが多かったから……


【晃一】
「なぁ……なんか腹減んねーか?」


【由梨香】
「あ、もう4時過ぎてるね」


【晃一】
「今からコンビニ行くのも面倒だな。
 なんか食えるもんあったかな?」


【由梨香】
「ふっふっふ。
 こんなこともあろうかと、お弁当作ってきました。
 さぁ、召し上がれ♪」


どんな状況を予想してたんだ?


カバンから、弁当箱が3つ取り出された。
弁当箱には唐揚げや玉子焼き、タコソーセージなんかの
いかにもお弁当って感じのものが色々入っている。


【晃一】
「………………」


【由梨香】
「あれ? どしたの?
 あ、おいしそうだなぁ、
 な〜んて思っちゃったりしてる?」


由梨香は得意気に両手を腰に当てながら、
ふくらみのない胸を反らしている。


【晃一】
「ん?
 ああ、いや、なんか用意のいい家出だなって……」


【由梨香】
「計画性があると言って♪」


てか、確信犯なんじゃないのか?


【由梨香】
「ちゃんとお母さんにはここに泊まるって言ってあるし」


【晃一】
「…………えっ?」


口に運ぼうとしていたタコソーセージが、箸から床へと
転げ落ちる。


【由梨香】
「ん?」


【晃一】
「………………」


【由梨香】
「あれ? 大丈夫? 止まってるよ?」


目の前で手をひらひらさせる由梨香。
でも、そんなことぐらいじゃオレの意識を現実に
戻すことは出来ない。


【由梨香】
「晃一さ〜ん、起きてますか〜」


【晃一】
「お、お前……今何て言った……?」


【由梨香】
「『晃一さ〜ん、起きてますか〜』?」


【晃一】
「その前っ!」


【由梨香】
「『あれ? 大丈夫? 止まってるよ?』?」


【晃一】
「もう一個前っ!」


【由梨香】
「もしかして『ちゃんとお母さんにはここに泊まるって
 言ってあるし』……のコト?」


【晃一】
「………………」


【由梨香】
「ん?」


【晃一】
「お…………」


【由梨香】
「お?」


【晃一】
「お前なぁ…………」


極限まで脱力。
最早、溜息すら出す気力が無い。


【由梨香】
「ん〜?」


それからが大変だった。
高藤家に電話をし、おばさんと茂人に由梨香が
ここにいることを伝え、
明日にはちゃんと帰宅することを由梨香に約束させた。


…………


……………………


ベッドを由梨香に譲り、オレはキッチンに毛布をひいて
そこで寝ることにした。


【晃一】
『オレはお前を襲う気はないし、お前もオレを襲う気は
 ないだろうけど、一応な』


そう言って、寝る場所を別にした……んだけど。
それは体の良い言い訳だ。
同じ部屋でなんか寝てたら、気になってオレが眠れない。


別に好意を抱いているわけじゃない(とは思う)けど、
異性として意識してないとは言い切れない。


『本当に寂しいから、来てもらって嬉しいのかな?』


なんとなく自問自答してみる。


そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。


でも、深く考えるのはやめた。
これ以上なんか考えていたら、本当に眠れなくなっちゃ
いそうだ。


……………………


…………


……


【晃一】
「ふぇっくしょんっ!!」


ずずっ


見事に風邪ひいたな。
この時期に毛布一枚はちょっと厳しかったか。


【由梨香】
「おかゆできたよ〜」


【晃一】
「あ″〜、あ″りがと」


情けねぇな、オレ。


【由梨香】
「ほれ、熱い内に喰え〜」


【晃一】
「すまねぇ……ずずっ」


【由梨香】
「鼻水啜らないで、おかゆを啜ってよぉ〜」


……………………


で、結局由梨香を家に帰すどころか、高藤のおばさんに
お見舞いに来てもらう始末。


情けない事この上ねぇよ……。





▼設定資料

この話は友人から聞いた実話を元に多少表現を
大きくしたり抑えたりしたもので、
当然登場人物等の名前は勝手に作ったものです。


ちなみに実話の方では、この5年後(今年)の
クリスマスに2人は結婚予定でしたが、
男の方(この話では晃一)がバイクで事故って入院。
退院までは結婚オアズケって状態だそうです。


あと、バレてるかも知れないけど、一部流用……てか、
なんかノリまで一緒になってるな……。

▼キャラクター設定

麻宮 晃一 (あさみや こういち)
男 21歳
一人暮らしをしている。
兄弟が多く、意外と寂しがりや。
大学を中退して、web関係の企業に就職。


高藤 由梨香 (たかとう ゆりか)
女 16歳
麻宮の友人、高藤茂人の妹。
幼い頃から兄の友人として晃一とはよく遊んでいた。
スポーツは得意だが頭の方は困ったちゃんらしい。
実話に合わせた設定にしていますんで、当然、
そして今でも本人の胸はないらしい(笑
(この話での晃一くん情報)


高藤 茂人 (たかとう しげと)
男 21歳
晃一の友人。
小学校時代からの親友で、ほとんど家族包みの付き合い。
妹の由梨香からは晃一の方が信用されているという
ちょっと可哀想な一面もある。

▼ネタバラシ

お弁当の部分は勝手に作った創作。
会話の中で、あんまり胸がないこと強調してたから
それを入れるために作ったんだけど、
あんまり胸の話には流れなかった。失敗。


後半はうまく話作れなかったから、
身近に転がってたネタ強引にくっつけてみた。

読み返してみるとやっぱり強引。反省。
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